水・米・技の紹介

萱島酒造有限会社

しっかりとした味わいと飲み応えを持つ、旨口の信条

しっかりとした味わいと飲み応えを持つ、旨口の信条

「西の関」の味わいは、二代にわたって現場を束ねてきた中村 元杜氏流であるとも言えましょう。その旨口のしずくには、九州の日本酒に一大革命を興した野白 金一 博士の教えが、命脈として生き続けています。
そして、この酒造りを引き継ぎ、本来の萱島酒造の味を変えることなく醸しているのが、河野 日出男 元杜氏と平野 繁昭 杜氏です。

河野元杜氏は、昭和8年(1933)地元・国東町の出身。昭和27年(1952)から萱島酒造へ勤めており、先々代の中村 千代吉元杜氏の薫陶を受け、その後、中村繁雄元杜氏の片腕として全幅の信頼を与り、中村元杜氏が大杜氏になると同時に杜氏を任せられました。

若かりし頃は厳しい職人社会に揉まれ、いったん蔵入りすれば家へ帰ることはなく、春先の皆造まで1日も休まず働いたそうです。
そして、河野 元杜氏とコンビを組んで次代の「西の関」を担うのが、48歳の平野 繁昭 杜氏です。平野 杜氏も国東町の出身で、地元の農業高校を卒業後、灘の大手酒造メーカーに勤めました。主に分析を担当していたことから、き酒の腕は名人の域に達しています。

その後、郷里での地酒造りの道を選び、昭和62年(1987)萱島酒造へ入社しました。
二人のプロフィールを見れば、“国東の地酒”を誇りとする西の関にふさわしい人物。まさに「地の素材と人と技」の結晶を実感します。

変わらぬ旨口のしずく
西の関一筋に53年
利き酒の名人

それでは早速、二人に銘酒「西の関」のモットーについて、解説をお願いしましょう。「基本としては、飲み手に喜んでもらえる、飲み応えのする酒です。日本酒らしい米の味を持っていることと、それなりにを飲めることが大切だと思います。国東の酒は、昔から味の濃さが特長ですから、お客様に『旨口だね!』と言って頂けると我々も嬉しいですよ」

萱島酒造一筋53年目を迎えている河野 元杜氏は、もちろん愛酒家であり、国東の酒の旨さは体の隅々まで浸透しているそうです。

それでは、平野 杜氏の意見はどうでしょうか。
「普通酒は穏やかな香りで、味わいはしっかりとした酒です。つまり、?き酒向きではない酒と言えますね。吟醸酒の場合は香りと味のバランスが取れていて、まろやかさが特長です。どちらの酒造りにも繊細なこだわりを持ち、手間をかけて造ることが西の関のモットーだと思います」

西の関一筋に53年
河野 日出男 元杜氏
平野 繁昭 杜氏

味のある国東の酒質には、しっかりとした麹造りが欠かせないと平野 杜氏は続けます。
「麹は、箱麹による手仕事が基本です。どちらかと言いますと、“総ハゼ型”の麹が多いですね。濃醇な旨口酒を造るには、まんべんなく菌が繁殖した麹が必要です。これを使うことで旺盛なアルコール発酵が起こり、味が乗ってくるわけです。酒米としては、吟醸酒は山田錦を主に、広島産の八反などを使用しています。普通酒には大分産のヒノヒカリ、佐賀産のレイホウなどですね」

そのためには、蒸し米段階での微妙な調整が大切なのでは?と筆者が訊けば「当社は、1回につき総米850キロの仕込みです。以前、普通酒などはかなり大きな蒸しを行っていましたが、現在はすべてにおいて小さく蒸し上げるようにしています。

また、それぞれの酒質に応じた限定吸水をしています」と河野 元杜氏は自信を持って答えてくれました。

限定吸水とは、秒単位にまでこだわって、米の周りだけ吸水した状態で水から引き上げ、時間をかけながら米の芯まで浸透させる方法です。この作業は水温や湿度に左右されますが、それ以上に白米が元々持っている水分が大きく影響します。ですから、吸水量が少ないと生蒸しが発生したり、逆に吸水時間を延ばしてしまうと、べたついてしまったりします。その限界値を見極めるのが、至難の業なのです。

麹室
主に総ハゼの麹
限定吸水にこだわる

さて、萱島酒造の醸造用水は、自然豊かな両子山や文殊山からの伏流水と聞いていますが、この水の魅力について河野 元杜氏に教えてもらいましょう。
「国東半島一帯の地下には広大な花崗岩の岩盤があって、その上に火山灰などが堆積して幾つもの地層が重なっています。ここに浸透し、濾過された雨水や雪解け水が岩盤の上に貯まり、水脈となって下っているわけです。水質は有機物や鉄分の低い中硬水で、硬度は約4度。麹を充分にアルコール発酵させることができる水です」
井戸は現在3本あり、88メートルほどの深さから汲み上げているとのこと。
「水質は、明治の創業当時からまったく変わっていませんよ。当社の地下には良質の水脈が流れており、先祖がここで酒屋を始めたのは天の御導きだったのかも知れませんね」と、付け加えます。

国東町の平野を下る河川も同じ水源へ通じていて、自噴している場所もあるとか。澄んだ水面には、それを実感することができるのです。

中硬水の水を使用
滑らかな川面

酵母としては、吟醸には9号系、普通酒は7号系を主として使っています。数年前までは、平野 杜氏が協会酵母から培養した「自社酵母」もありましたが、今は基本に忠実な酒造りをとの方針から、安定性の高い協会酵母を用いています。
このように上質の米と水、研ぎ澄まされた技から誕生する西の関の品質ですが、その素晴らしさを物語るとっておきの酒がありました。
それは、蔵の奥まった部屋に眠る古酒たち。古くは40年ほど前に醸された酒もあり、中村 繁雄大杜氏の魂が宿り続けている逸品が揃っているのです。

これらの秘蔵のコレクションは、現在、特別な「隠し酒」として萱島 社長たちがデビューの場を検討しています。

酒蔵内
秘蔵の古酒倉庫
絶品の隠し酒

萱島酒造の製造現場は現在7名から8名で構成されていますが、20歳代の若い蔵人が増えており、女性の姿も見られます。大学の農学部出身者だけでなく、他業種でキャリアを持っていた技術者なども酒造りをやってみたいと門を叩くそうです。

これらの人材の育成、抱負を平野 杜氏に訊き、インタビューを終えることにしましょう。「皆、ひたむきで向上心が強いですよ。着実に力をつけていますから、何も言うことはありません。当社では今、国税局から指導員の方を迎えていますが、高い評価を頂いています。まず、蔵の中の清潔さ、整理がきちんと行き届いていること。それは、先代の中村 千代吉杜氏の時代から踏襲されているルールでもあるんです」

例えば、萱島酒造のタンク洗浄は、長い竹ブラシを巧みに操って行います。これは相当な重労働ですが、若手の職人たちは黙々とこなすそうです。通常、大手メーカーは自動式で一気に水を流しますし、中小メーカーもホースの水で流す場合が多いのですが、萱島酒造ではすべて手作業なのです。
「指導員の先生は『これで、金賞が獲れるないはずはないよ』と言われます(笑)」とはにかむ平野 杜氏。
その言葉にもあるように、河野 元杜氏、平野 杜氏とも今の目標は、最近遠ざかっている「全国新酒鑑評会」での金賞受賞です。懸命に頑張る蔵人たちとともに、金賞の祝盃を掲げる日を目指しています。
皆造を迎えた萱島酒造の蔵には、整理と片付けに勤しむ職人たちの笑顔がありました。
その笑顔の先に、必ずや金賞はやって来るだろうと筆者は思うのです。

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