清流のごとく、新たなベネフィットへ進化する「上善如水」の若きリーダー
お目にかかれば、誰しも「好青年」といった第一印象を持つであろう、白瀧酒造株式会社のトップ・高橋 晋太郎 代表取締役社長。むしろ蔵元社長というイメージよりも、エリートビジネスマンといった雰囲気を筆者は感じました。
それもそのはず、29歳という若さで社長に就任したのが1年前。それまでは、東京の大学を卒業し、都内の大手企業に勤務していました。ちなみに、大学の理学部で統計学を専攻していたそうで、まったく別の世界から酒造業界に入ったわけです。
「あろうことか、私の父(前社長)が60歳で引退すると宣言しまして。6年前に、そろそろ帰って来いと言われ、26歳の時に白瀧酒造へ入社したのですが、結局、予定よりも1年早く社長を引き継ぐことになりました。新潟県には錚々たる重鎮の蔵元様ばかりがいらっしゃるので、私のような若輩者には緊張の連続です」
代々、蔵元の家系だけに、いつかは後継者になる日が来ると覚悟してはいたが、予想もしない早さに、父親である高橋 敏 社長と猛談判。しかし結局、押し切られてしまったそうです。
「右も左も分からないまったくの素人だったので、開き直るしかありませんでした」と高橋社長は苦笑しますが、社長デスクでテキパキと仕事をこなす姿は堂に入ったものです。
さて、高橋社長にまず訊いてみたいのは、今後の日本酒需要の鍵を握る若い人たちへのアプローチです。
というのも、平成2年(1990)の発売以来、全国の日本酒市場を席巻し、空前の地酒ブームを作ったと言えるのが白瀧酒造の銘酒「上善如水」シリーズ。
そのブランドロイヤリティを持って、次なるファン作りへどのように取り組むのか。筆者ならずとも、聴いてみたいところでしょう。
「実は、蔵元なのに、私はあまり酒が強くないんですよ(笑)。私がサラリーマンの頃、同僚もそうでしたが、今の若い方たちに共通して言えることは、日本酒を飲んだことがない、あるいは飲む機会がほとんどないこと。身近な存在になっていないんですね。でも私が白瀧酒造に入ってから当時の友人たちが湯沢へ遊びに来た時、蔵を案内し、酒を試飲してもらったのです。すると、『日本酒って、こんなに美味しかったんだ!』と感動してくれたのです。ですから、皆さん、美味しい日本酒との出会いが少ないわけです。逆に言うと、酒造メーカーは、その出会いやきっかけの場をまだまだ作れていないんですね。ここを模索することを、私は入社後、第一ステップにしました」
そう語る高橋社長が一昨年から展開しているのは、コンセプトに季節感を持たせた新しい上善如水の提案です。もっと若い人たちが手に取りやすいブランドイメージをと、ラベルには小難しい専門的な品質表示を掲載せず、ボトル全体を使って季節の色や風情を表現しています。
上善如水が当初ブレイクした時のファンは、すでに45歳以上の人が多く、今では既存顧客ではなくなりつつあります。つまり、新しいファンを獲得する第2ステージがやって来ていたのです。
そこで、最近のアルコールをあまり飲まない若い人たちに、どんなアプローチをするべきか、高橋社長は検討を重ねました。その結果“親しみやすさ”を重視し、トレンド感を前面に押し出したわけです。
もちろんその品質は素晴らしく、上善如水本来の瑞々しい味わいを感じる「なまの上善如水」や、微発泡タイプの清酒「はじける上善如水」など、個性的なラインナップを作り出しています。
これらのバージョンアップを図った理由は、高橋社長が、徐々に近年の飲酒傾向にドライや淡麗といった味わいが薄れ、旨味(甘さ)が求められていると感じたからです。
「辛さに走っている焼酎ブームの頃から、いずれ、甘さの波が揺り返して来るのではと思っていました。そして、香りもおだやかな酒が好まれるようになっているようです。これを日本酒に置き換えると、吟醸系から純米系へシフトしている観があります。2009年3月に上善如水シリーズを純米酒へリニューアルしたことで、地元向け一部商品を除き全て純米化しました。」
とは言え、吟醸酒や本醸造など、醸造用アルコールを使った酒を否定するのではないと、高橋社長は言います。
現代の日本酒には、米、水、米麹、醸造用アルコールという要素があるからこそ、さまざまな製品が生み出され、そこからユーザーの好みによってセレクトするのが日本のマーケットの在り方。しかし、最近、日本酒が活況しているアメリカでは、醸造用アルコールを使った日本酒はハードリカー扱いになるため、ほとんどその市場に存在していない。そんな傾向も、その蔵元が純米主義の戦略を取るかどうかには、少なからず影響しているのでしょうと高橋社長は推察します。
さて、海外の話題に触れたところで、白瀧酒造の海外への取り組みを締めくくりに訊ねてみましょう。
「上善如水は、すでにアメリカやアジアにも輸出されていまして、やはり純米大吟醸や純米吟醸がほとんどです。昨年、私もニューヨークへ参りまして、日本酒と日本料理の事情を見学してきました。意外だったのは、年配のネイティブな人たちが飲んでいるのかと思ったのですが、私と変わらないか、むしろ若い人たちが飲んでいました。かなり値段的に高いのですが、ニューヨーカーはお金持ちなんですね(笑)。
彼らの多くは、日本食と日本酒という形から入っている気もしました。例えば、一週間に何度かは和食レストランに行って食事をするというスタイルが、一つのトレンドになっているんですね。ですから、本当に日本酒本来の米の旨味が分かっているのかどうか、疑問も感じました。ただ、レストランの競争が非常に激しく、輸出される銘柄もどんどん増えてますから、安閑とは見ていられません」
最近では、むしろアジアへ出向く機会が多くなったという高橋社長。海外事業部としての展開も視野に入れて、世界の上善如水を目指しているようです。
その斬新な発想とハツラツとした手腕に、新たな上善如水ブランドの躍進を期待しましょう。