モロミの息を感じ、にごり酒をこよなく愛するスペシャリスト
三輪酒造の商品ラインナップは、前述したように9割が「にごり酒」です。では、にごり酒とはどういうもので、一般の清酒とは何が違うのでしょう。
それを、ごく分かりやすく解説してくれるのが、三輪酒造の醸造責任者 服部 伸重 氏です。
「酒の造り方としましては、基本的に清酒と同じです。ただ、味のもっていき方が、少し違うということ。清酒は、にごっているモロミを搾ってから出来上がりまして、そうなると清酒と酒粕に分かれますね。でも、当社のにごり酒は“網こし”といって、3ミリの網目を通すだけですから、ドロドロに溶けた米の粒を網に通しているようなもので、いわばこちらは酒と酒粕が一緒になったものです」
つまりは、にごり酒の方が、純粋に本来の日本の酒そのものでしょうと、喜色満面に答えてくれました。
ところで、気になったのが「味のもっていきかたが違う」との言葉。これもまた、どういう意味なのでしょう。
「普通の清酒は“三段仕込み”という三段階のモロミ工程があるのですが、にごり酒はこの後に、甘味をつける作業を施します。
当社ではこの作業を“四段”と呼んでいますが、蒸米と水、それに大量の糖化酵素を使って甘い味をつけるのです。 こうすることで、にごり特有のドロッとした甘味の強い、日本酒度でいうとマイナス25度くらいの酒になるのです」
日本酒度がそんなに大きなマイナス数値になっても、飲んでそれほど甘ったるい感じがしないのは、「酸とアミノ酸で調和し、甘味に打ち勝つように調整するからです。こうして力強いにごり酒を造っていくには、使う麹米にも強いものを使用しないと、最後に味負けしてしまうことになります」
ちなみに三段仕込みについて、服部氏に付け加えてもらうと、「清酒の場合、酒母に麹や蒸米を一度に入れてしまわないで、三段階に分けて仕込み量を増やしていきます。これは酵母の増殖や醪(もろみ)の温度管理をしやすくするための知恵で、これを三段仕込みと言います」とのこと。
三輪酒造のにごり酒の場合、この後に四段目の作業として、糖化した蒸米などで甘味をつけるというわけです。
では、日本酒度、酸度、アミノ酸度、アルコール度などの数値さえ決まれば、誰が造っても同じようなにごり酒をつくることができるかというと、「たぶん無理でしょう」と服部氏は言い切ります。
「清酒ばかりを造ってきた人の発想とにごり酒の造りでは、その考え方が根本的に違うからですよ」
つまり、清酒は最後に搾りますが、にごり酒では網こしのみで、濾過を一切しません。火入れ殺菌についても、清酒ならすぐに殺菌できるのですが、にごり酒では米粒の白い塊があるので、その芯まで殺菌しないと完全に酵母菌を殺すことができません。
さらに酵母菌が死滅しなければ、翌日には、また発酵して酒質が変わってしまいます。このため三輪酒造では、1升瓶1本の火入れに15分くらいかけるといいます。
こうした技術は、にごり酒35年の三輪酒造ならではのものと言えるでしょう。
このように、にごり酒に特化した三輪酒造ですが、35年の間には様々な挑戦をし、御馴染みの緑ビンの純米にごり酒以外に、いくつものにごり酒を開発し、世に送り出してきました。
「にごり酒は、全く同じように造っても、にごり具合が濃いか薄いかで味が全く違います。これが面白いところで、にごり酒の味は、酒の香りや味に加えて、食感も大きな要素となるわけです。さらには、厳重なる火入れ殺菌も、味や香りに大きな影響を与えている為、実際に出来上がった生の状態のものと、火入れされてビンに詰まったものとは、全く別物と言っていいでしょう。こうしたことを社長共々考えていたら、いつの間にか色々なにごり酒が出来てました。」と、服部氏。
「その商品の中で、ひときわ異彩を放っている商品がありました。それについて尋ねてみると、「これは社長が長年夢見てきたどぶろくなんです。」という答え。
そもそもは、売れるどぶろくを依頼されたわけですが、当時は製造免許上、清酒に属するいわゆるにごり酒という形でしか実現できなかったそうで、ある時期から社長に本物のどぶろくを造れという難題を与えられ、悩みに悩んだ末に誕生したお酒でした。これも、にごり酒に続く新たな三輪酒造の顔と言えるでしょう。
このどぶろくの誕生でにごり酒の開発も一段落ですか、と尋ねると、とんでもない、と大きく首を振る服部氏。
「まだまだこれからなんです。どぶろくの味わいもさらに磨きをかけていかなければならないし、にごり酒も自分達が蔵の中で味わうものをお客様にお届けしたいんです。それに発泡性のにごり酒も....。」と、まだまだこれからと言わんばかりに彼の話は続きます。
そんな想いが叶った新たな白い美酒を、心待ちにすることとしましょう。