蔵主紹介

秋田酒類製造株式会社

挑戦し続ける、高清水へ!英断と速攻で、革命をやり尽くす。

挑戦し続ける、高清水へ!英断と速攻で、革命をやり尽くす。

紳士然とした、長身でスマートな物腰。そして、秋田人らしい穏やかな人となりを感じさせる笑顔。しかし、平川 順一(ひらかわ じゅんいち)取締役社長にインタビューを始めるやいなや、「挑戦」「やり尽くす」「革新」と激的な言葉が立て板に水のごとく飛び出しました。

「スピード、チャレンジ、イノベーションが、新しい高清水の価値を創り出す三本柱。全社員がプラス思考で可能性をとことん追求する企業が我が社のテーマであり、私のミッションです。確かに、少子高齢化といった不安材料もありますが、日本酒の需要には、まだまだ開拓の余地が残っています。造り方から情報発信まで、マーケティング戦略も含めて、すべてやり尽くしたのかを社員全員が自身に問い直す時代が来ています」

精悍な表情へ一変し、瞳に光を宿す平川社長の覇気に、筆者は控えめな東北人らしからぬ突進力を感じます。男鹿半島の鄙びた町に生まれ育ち、県下随一の秋田高校から慶応大学を卒業した慧眼に、先見のビジネス志向と秋田流の粘り強さを兼ね備えた経営者と感じました。

平川社長は平成6年(1994)に秋田酒類製造株式会社へ入社し、総務部長、営業部長など要職を経て、平成24年(2012)に代表取締役に就任。青年期にバレーボール選手として鍛えたチャレンジスピリッツが、60歳には見えない若々しい容貌とバイタリティも保っているようです。

平川 順一 取締役社長

経営トップとなる以前から平川社長が大車輪で行ったのが、まず高清水のブランドロイヤリティの革新です。長年のオールドユーザーであれ、新しいビギナーであれ、高清水の品質と味わい、そして秋田の酒としての価値を、今一度、お客様のために見直さねばならないと平川社長は決断をくだしました。

さらに、ブランドイメージを表現しているラベルデザインなどのトーン&マナーにも悉くメスを入れました。
「過多になったアイテム数を削減し、ラベルやパッケージの統一を含め3年間かかりました。高清水ブランドは、元来、価格以上の品質を最優先にしてきました。当社は創業以来、コストパフォーマンスの高い普通酒や本醸造クラスが主力で、そこに大吟醸や純米大吟醸を加えることで、ようやく両輪としての目途がついてきました。しかし、安息してはいけません。毎年、わずかでも品質の向上や新しい市場への取り組みを果たさなければ、未来はありません」

ブランドロイヤリティを革新する
ブランドロイヤリティを革新する

その取り組みの成果として最近登場したのが、新しいタイプの純米吟醸「デザート純吟」。個性的なこの商品も平川社長の指揮の下、女性に楽しんでもらう週末の日本酒をコンセプトに、流行りのデザートワインをテイスティングしながら開発されました。
秋田県が誇る酒造好適米「秋田酒こまち」を磨き上げ、上品な甘さと酸味を最大限に引き出した甘い純米吟醸。スリムなボトルと洗練されたゴールドラベルが、ひときわ目を惹きます。

聞けば、秋田県内では2か月で2万本を完売し、当初の目標を半期で達成するほどの人気ぶり。
評判の秋田酒類製造株式会社のfacebook「秋田もっきり美人」ともあいまって、東京を主とする県外市場でもブレイクが期待できそうです。

女性に人気の新商品「デザート純吟」

高清水のブランド力は、日々の改革と挑戦なくしてありえない。漫然としていては、変化の波を乗り越えることはできない。社風をガラリと変えるほど奮起した平川社長は、品質向上のために惜しみない投資を展開しています。最新鋭の全自動精米機や醸造設備を配した御所野蔵もその一つで、業界をあっと驚かせる投資でした。
「とはいえ、面舵いっぱいの方向転換を図れば、設備的にも人員的にも大きな負荷がかかります。今、当社の社員はこれまでに経験していないほど、多忙でしょう。しかし、ここが正念場です。前のめりに不退転の覚悟で、私も社員と共に戦っていきます」

中堅以上の酒造メーカの生命線は、品質向上投資と合理化投資ができるかどうかにかかっている。それが成功し、増産投資に踏み切れる蔵元だけが生き残っていける。したがって、これまでの延長線上にない新たな高清水を目指すのだと平川社長は熱く語ります。
かつて金融マンとして企業への融資やコンサルティングを担った経験値が、的確な設備投資に生かされているようです。そんな平川社長の揺るぎない信念が、全国新酒鑑評会16年連続金賞の技量にもつながっているのでしょう。

御所野蔵の最新鋭精米所
品質向上投資で、16年連続金賞も

5年前にリニューアルした大吟醸、純米大吟醸もグイグイと人気上昇中の高清水ですが、そこには平川社長のコストパフォーマンス意識が光ります。筆者が思うに、高品質化だけでなく、大吟醸クラスを手頃な価格で売ることに抵抗感がある業界の壁も打ち破っています。
「お客様の求める品質と価格のバランスをとことんリサーチし、私はこの商品ならば売れると確信していました。まずは、コストパフォーマンスの良さで高清水のブランドロイヤリティを復活させ、さらにレンジのある吟醸造りの商品を提供できればと思います」

それが可能なのは、本社蔵や御所野蔵には熟練した蔵人による膨大な醸造データがストックされ、求める規格を実現できる能力を備えているからだと平川社長は答えます。 試験データを駆使して、次々に開発される新商品。その手ごたえの良さに、平川社長だけでなく、社員全員やる気満々のようです。

また、吟醸酒は海外に向けた輸出でも実績を上げています。むろん、いずれは大きなシェアに育てねばなりませんが、現在は5~6か国へ向けて先行投資を始めています。
アメリカの著名なワインインポーターが占める北米市場、ロンドンオリンピックの公式サプライヤーと取り組むイギリス市場など欧米向けが中心ですが、今後も費用対効果が顕著な市場に参入し、広告・販売促進策も図りながら売り上げの拡大を目指します。

熟練した職人による膨大なデータを活かす
海外輸出は、欧米を中心に

さて、ビジネストレンドやマーケットに一頭地を抜く平川社長ですが、その一方で、社員の酒造りへの精神や哲理にも重きを置いています。
秋田酒類製造株式会社は、修行の場でもある「仙人蔵」を公開しています。年輪を刻んだ古い蔵を再生した施設で、平成17年(2005)に完成し、コンセプトは“酒造(さけ)道場”。日本酒と真正面 から向かい合い、修行をするための場です。
この静謐な空間への思い入れを、平川社長に問うてみました。

「我々は、全国に御得意先やお客様を頂戴していますが、そもそもは秋田に生まれ育った蔵元です。例えば、高清水の酒は99%秋田県産の米で造られ、この地に湧く名水で醸しています。しかも、造り手は秋田人。ですから、まずは地元に愛され、信頼され続ける酒でなければなりません。秋田から派生して成長するならば、地域に恩返しする義務もあります。それは、各地で連綿と営んできた酒蔵の掟じゃないでしょうか。仙人蔵では、ハイテクな醸造設備や先端技術を一切導入していません。蔵人や研究者に、己と対峙することで“日本酒とは、何か。秋田の酒造りとは、何か”を学びながら、酒の神様を敬い、畏まる心も養って欲しいのです」

ひっそりと静まった蔵には何の変哲もない琺瑯タンクが並び、温度管理設備や空調も一切ありません。片隅には、手動の佐瀬式のフネが佇んでいるだけ。
ここでは、まさに酒の神が降臨する神籬(ひもろぎ)を感じることでしょう。

酒蔵道場の「仙人蔵」
秋田酒の精神・哲理を養う
秋田酒の精神・哲理を養う

仙人蔵には、伝統と文化を語るギャラリーも設置され、地元から旅行客までが訪れています。
片隅には、趣のある昔のフネ(上搾器)で作ったカウンターバー。ゆかしい緋色の灯りに包まれながら、高清水の美酒を心ゆくまでテイスティングできます。

階上には、酒造りにちなんだレトロな品々が揃えられ、見学者の視線を惹きつけます。講演・イベントにふさわしいホールに佇めば、歴史と伝統がしみ込んだ伽羅色の木肌にゆったりと癒されることでしょう。
ここでは、すでに秋田県出身のミュージシャンによるコンサートも開催されるなど、地域に貢献できるカルチャースペースとしても活用されているそうです。

締め括りに飴色のカウンターバーで平川社長の話しをうかがいながら、筆者は、心=社員の姿勢、技=技術と設備、体=高品質と販売力……この三位一体が、新しい高清水ブランドを推し進めていると実感しました。
ボトルを愛しげに見つめる平川社長の横顔は、挑戦し続ける高清水の自信に満ちているようでした。

伝統と文化を語るギャラリー
伝統と文化を語るギャラリー
挑戦し続ける高清水へ