山口が育んだ自然の恵みを、熟練の技で醸す
永山酒造の造りの総指揮を採るのは、但馬杜氏の寺谷 進 杜氏。
17歳で酒造りの世界に入り、42歳で杜氏に、酒造りもさることながら後進の育成にも手腕を発揮する。
2年前より前任の但馬杜氏の勧めもあり、社員杜氏の育成を含めて、永山酒造の酒造りのすべてを任されている。
「今は、但馬より3人と工場長、社員の5名で造っています。やはり我々は山口で酒を作っているわけですから、地元の方に愛される酒造りを心がけています。10人呑んだら8人がおいしいと言ってもらえるような酒を造っていきたいですね。」
そう語る寺谷杜氏。それでは、造りを見学しながらお話を伺ってまいりましょう。
まずは永山酒造のお酒の特徴について聞いてみた。
「永山酒造では、創業当時から造られる『男山』と、現社長が立ち上げられた『山猿』と大きく2つのブランドがあります。『男山』はレギュラー酒、けれども手は抜かないレベルの高い酒、一方で『山猿』は穀良都や山田錦など材料にこだわった酒に仕上げています。どの価格帯でもキラっと光る酒になっていますよ。」
そう話しながら、蒸しあがった米を冷ますための簀子を広げます。
「麹米は簀子で35度前後までここで冷まし、麹室に運びます。昔は自動製麹機を使っていたのですが、やはり機械では大量には作れますが、徹底した温度管理などは難しいですね。こうして造ったほうがいいものができます。自動製麹機は導入したものの、すぐに使わなくなってしまったんです。」
そうこうしているうちに、酒米が蒸しあがりました。
社長も交え、スタッフ総出でお米を広げ冷まします。
杜氏の号令で、適温に冷まされた米は麹室へと運び込まれます。
麹室に入ると、外の寒気が嘘のように温かい。
「以前は自動製麹機が入っていましたが、現在は杉板を張り替え、温度管理も各所に温度計を設置して確認しています。米を冷やしすぎないよう、包む布などもさまざまな素材を試しているんですよ。」
広げられた米は、杜氏の手により均一に種麹がふりかけられる。揉みこまれ、全体に麹がついた米はまとめられ布をかぶせられ、寝かされる。
「次は残りの蒸し米をタンクの方に送り込みます。こちらはファンで冷やしたものをタンクに送っています。」
そういうと杜氏はベルトコンベアを流れる米に目を光らせる。
この工程で、早朝から始まった造りは一段落。
事務所に戻り、改めてお話を伺いましょう。
一旦事務所へ戻り、永山酒造の酒の根源でもある”原料”について話を伺った。
まずは仕込み水の特徴。
「ここの水は厚狭川の河川伏流水です。秋吉台から来ているので、カルシウムが多く含有されています。そのため硬度が高く酒が作りやすいですね。」
なるほど、鍾乳洞の地下から来る水なので、カルシウム成分が多い。山口県ならではだ。
「そしてなにより、秋あがりする酒に仕上がりますね。当然そうなるよう狙ってバランスはとっていますが、水によるものも大きいと思います。寝かしても酒の質が強く、悪くならないんですよね」
熟成して旨みが増す、地酒ファンにはたまらない言葉だ。
そして永山酒造がもっとも力を入れている米。山田錦や日本晴など有名な酒米以外に幻とも言われた穀良都の酒も作っている。
「米に関しては、毎年農家の方々と集まり、歓談しながら米の出来や、もっとこういう米にしてほしいなどの意見交換を随時行なっています。穀良都は良い米ですね。やわらかな膨らみのある味になり、不思議なくらいキレがいい酒になります。山田錦に比べ、穀良都のほうが操作しやすいですね。吸水しやすく硬化も早い。原型のまま蒸しあがりますから、いい麹を造れます。」
穀良都は地元・三隅町の酒米グループが新ブランドを、と栽培した米だ。
山口県といえば、全国で初めて山田錦を兵庫県から譲り受けた県でもある。
山田錦に穀良都、地元酒米も山口県の魅力である。
天恵の水に、地元の力を結集した米。この原料に熟練の杜氏の技が、酒に命を吹き込んでいく。そして、その酒を飲む人々にはきっと笑顔がこぼれるのだろう、と感じた。
最後にこれからチャレンジしていきたい造りについて伺ってインタビューを終えることとしましょう。
「清酒は日本の国酒です。いかに消費が低迷してもなくなることはありません。清酒として『甘味』『酸味』『苦味』『渋味』の五味のバランスが良い調和に挑戦し続けたいですね。毎年が技術を習得した時のように勉強です。」
経験と勘がものをいう酒造りの職人の世界。
いままでの経験をベースに新たな試行錯誤が、傑作を生み出すのだろう。
鍾乳洞の流れをくんだ地元の水、地元農家が苦心して栽培した米を熟練の匠の技でまとめあげられた永山酒造の酒。
旨口なのにすっきりした味わいは、地元”山口県”をの塊を絞った、まさに『長州のしずく』だ。
今回見学させていただいた仕込みの酒の完成に期待しつつ、今宵は山猿を傾けよう。