テーブル席の男は、屈強そうな体躯だった。
浅黒い顔に短く刈られた髪。引き攣る頬の傷痕は、どう見てもサラリーマンとは言い難い。
常連客もそんな風体に何かを察してか、寡黙になっていた。
男は食事と熱い番茶だけを、黙って注文した。だが一瞬、口惜しそうにみなの晩酌へ視線を止めていた。酒を我慢しているようにも思えた。
「真知子さん。ありゃあ、相当やばい奴だよ」
「誰かを待ってるみたいだったな。その筋の人間か・・・・・・」
もう本人はとうに帰っていたが、カウンターに並ぶ松村と澤井は声を殺して囁いた。
「よしなさいよ、当て推量は失礼でしょ。どんなお客さんでも、見てくれで決めちゃいけないの。みんな、大切なお客様よ」
そう言って膳を片付ける真知子は、ふと、足元に落ちている小さな紙袋に目を止めた。
袋の中には、人気のアニメキャラのキーホルダーが入っていた。
「あら、今の人かしら?」
「まさか! その前にいたカップルじゃないのか?」
澤井がそう答えた途端、今しがたの男が駆け込んで来た。
「落し物なんじゃ! ちっちゃな袋・・・・・・。あっ!それじゃ、それ。すまん」
男の後ろに、小さな女の子を連れた女性が立っていた。
強面をくしゃくしゃに崩した男は、嬉しそうに、女の子にキーホルダーを手渡した。
「ありがとう、お父ちゃん」
女の子が満面の笑みを浮かべていた。
表情を曇らせた女性はそそくさと女の子の手を引き、男を残して行った。
男は気の抜けた様子で、「すまんやった」と真知子に言った。
「あの・・・・・・1本、熱いのをつけましょうか」
背中に伝わる真知子の言葉に、澤井と松村が頭を掻いていた。