今の地酒ブランドを飲むべし!
先月のこと、当「地酒蔵元会」サイトへの投稿メールで、お二人の方から頂いたご質問に興味をひかれました。ひとつは、「最近、娘に地酒の美味さを教えられ、あらためて日本酒ファンになった」とおっしゃるAお父さん。もうひとつは、「本物の地酒とは、何をもって言うのか」を勉強テーマにしているB大学生さん。
今回のテーマは、まずAお父さん=地酒のビギナー父さんの現状について考えてみようというもの。 そして、次回はB大学生さんへとつづき、最近の日本酒消費動向のポイントとなる2つの事例を比較してみます。
さて、Aお父さんは、先輩から「この酒の味が分からんのかっ」などと叱られながら、まずは御銚子徳利の持ち方を先輩に教えられ、一発芸も仕込まれながら日本酒を覚えた世代。なのに日本酒(地酒)のことを娘さんから教えられ、情報の出元(ご教示いただいたの)は娘さんの友人。
でも不思議と口惜しさを感じることも無く、目尻を下げながら娘さんと晩酌しているAお父さん。うらやましいですね。楽しそうに飲まれている団欒風景が目に浮かびます。
このAお父さんのように、当世のオトーサンたちは、かってはサントリーオールドから地酒に進み、東の横綱・西の雄と日本全国各地の地酒を飲み比べていました。先輩から教えられた清酒とは違う地酒の醍醐味にのめり込み、一っ通りの地酒の知識はお持ちのはず。
にも拘わらず娘さんからは「オトーサン、この地酒も知らないの?」などと言われ、あわてて昔の知識合戦に使っていた醸造年鑑などを引っ張り出します。
我が娘のお薦めの酒蔵を調べてみれば、とても東京では何処かしこでも買えるはずのない石数の酒蔵。
「娘は、いったいどこで、この酒を見つけて来たんだ!?」などと首をかしげながらも、「これは広島の酒だ」などと、今見た年鑑の県名で知ったかぶるのが精一杯。んー、本来ならトッテモ悔しい場面のはずなのに不思議と口惜しくない。 結局かわいーんだ、オジサンは、本来。
新感覚のうんちくを学ぶべし!
娘さんも、そんな父親の心情を知ってか知らずか「ワタシもネットでウェーブしてたらタマタマ見っけてサ」などとカバッテくれてますが、「この玉栄って品種が優しい味だしてて、ヌーボーなのに酸のボディ感が柔らかいんだよね」などと語り続けられれば、全くついていけないオトーサン。
辛うじて「地酒は原料米に色々あってな。大体、日本酒度は数字が大きい方が辛口でな・・」なんて講釈し始めた途端に娘さんにさえぎられ、「お米は玉栄だって言ったじゃん。それに甘口辛口なんてのは酸度とのバランスが大切なんで、ワインだってフルボディかライトかってのがあってこそスゥィートかドライかが絡むんで、ワタシもドッチかっちゃぁ辛いのが好きだけどボディ感のないのはイヤなんで、地酒でも酸の強い原酒なんかはドライじゃなくたって好きだよ」って・・・こりゃぁオトーサンには返答すら出来ません。
「俺は先輩からシゴかれながらも、自分で飲んで自分で覚えたんだ」などと少々腹立てながらも、そこはオクビにもださず、「オトーサンの頃はワインなんか余り飲めなかったから、白ワインは好きだが、赤ワインの濃いのは少し渋くってな」とノタマイます。
地酒で父親の存在を取り戻すべし!
これを口火に娘さんの背筋は立ち、目の高さはオトーサンより30cmも高くなります。
線は下45度に見下ろしながらワインの講釈が始まり、しかもそれはオトーサンが知っているボルドーやブルゴーニュに留まらず、カリフォルニアからチリに及び、オトーサンの目の高さは益々さがり、下から娘さんを見上げながら「誰の金でそんなに飲んでやがんだ」などと、一人ごちながらチビチビ舐めてます 。
しかも、娘さんの買ってきた地酒なのです。「まぁ、オトーサンの好みもチョット分かったしさ。今度オトーサンに合いそうな地酒も買ってきてあげるよ」などとニコッと微笑んだ娘さんは、手の平を一杯に広げながらオトーサンの目の前に差し出します。
こうした場合、ローマの休日のオードリーヘップバーン以外は差し出された手を握り返す権利は無く、黙って現金を手の平に置くしかありません。
つらいなぁ。しかし、オトーサン!!そのうち肴を用意して、イソイソと娘さんの帰宅を待ちわびるそんなお父様も結構ですが、飲む地酒の選択は娘さん任せ、購入資金は当てにされっ放しでは、ちと情けない。
「サスガはオトーサン。やっぱり自分で飲んで覚えた人の選ぶ地酒はサスガだね。こーゆーのナガレイシって言うんだよね」などと娘さんに言わしめて、「馬鹿モン、ナガレイシと書いて流石(サスガ)と読むんだ」なんて場面も作ってみたいものですなあ。